みなさん、こんにちは。
あれは私が中学三年、いや高校一年生の頃だったでしょうか。
私は当時、自分の部屋に、中一の頃に小遣いをためて買った、14インチのテレビを持っていました。買ったのは、ゲームをやるためでした。小学校までは兄と同じ部屋だったので、自分だけの部屋をもらったとき、これで好きなゲームができると思って買いました。それで「ときメモ」を、隠れてこそこそやっていました。やっぱり自分の部屋っていいね!
高校に入ってしばらくして、ビデオデッキを買いましたが、その頃はまだ、録画をしてテレビ番組をみるという発想がなく、見たいアニメの放送時間になると、テレビの前に来て見ていました。だからまあ、レンタルした映画とか見たかったわけですね。あと、ほらアダルトビデオとかね。ダメかな?
つまり、ゲームやアニメより、普通のテレビ番組の方が、優先順位が圧倒的に低かったのです。
というより、大学生になるまで、自主的に見ていたテレビ番組は『世界丸見え』だけですね!なぜかこの番組だけは、小学校の頃から、十年くらいは見ていました。ドラマなんて、まともに見たの『Xファイル』だけですし。
なんかこう、高校一年くらいの時は、みんなと同じテレビ番組なり音楽なりに一瞬、興味が出ても、すぐにどこかにそれていくという、ハレー彗星みたいな興味の持ち方をしていました。で、そんなもん、同級生と話なんか合うわけないじゃないですか。そりゃ、高校なんかまともに行かねえよ!このぼけ!あとはアニメですね。例えばハウス食品の世界名作劇場とか、『ドラえもん』とか、『クレヨンしんちゃん』とか、を判で押したようにずーっと見ていましたね。で、『ミュージックステーション』が始まったら、部屋に戻るという。えーと、『世界名作劇場 → キテレツ大百科』だったかな?ここら辺思い出そうとすると、死ぬほど長くなるので、またにしましょう。
ことほど左様に、テレビ番組に関してはウルトラ保守的でした。タレントとかアイドルには一切興味なし、というよりむしろ一方的に嫌悪。ゲームやアニメの方が面白いに決まってんじゃねーか!お前らそっちに行ってんじゃねーよ!と、高三になっても、金曜日は七時になると、テレビを『ドラえもん』に合わせて、家族と食事中に見ていましたが、あれ、心配されてたのかな?
誰も見ていない、こちらから言いもしない、何にもならない、ただの努力。これを忠誠といわずして、なんと言う!?
で、ある夜。
そう確か、あの夜は雨が降っていました。私は、家族が寝静まると、自分の部屋を真っ暗にしたまま、デスクのランプだけ点けて、ゲームをしたり漫画を読んだりしていました。その方が、カッコいいと思っていたのです。おかげで視力がメキメキと落ちていきました。冬なんかは、机のすぐ隣りにある窓を開けると、冷え冷えとした空気の独特のにおいがして、好きだったなー。
でも、確かその日は雨でした。ザアザアと雨が降る音を聞きながら、なんとなくテレビをつけました。蒸し暑かった気もするから夏かな?
すると、見たことのない深夜アニメがやっていました。
画面には、夜の街が映っていました。
それは、東京かどこかの都会の雑踏でした。
横断歩道を渡るサラリーマンや水商売風の女。けばけばしい格好をしたクラブ帰りの男。言葉が重なって、聞き取ることができなくなった、がやがやとした話し声。緑色と黒色を反射したビル。
そして、そこに一人の女が歩いていました。
確か、学生だったと思う。彼女は、まるで何かに取り憑かれたかのように、そんな夜の街を、一人でさ迷い歩いていました。
そして、路地裏からフラフラと、ビルの屋上へと上がっていきました。
そのままフェンスを乗り越えると、飛び降りて死にました。
投身自殺でした。
当時の私は、段々とそうしたメインストリームではない作品に傾倒しつつあったので、この第一話を見て驚きました。アニメでもこういう作品あるんだなと。そう、第一話をたまたま見たのです!これは内容と照らし合わせて、後から知りました。
確か、かーずさんに初めてお会いしたときも、どういう流れか、「lain」の第一話のその話をした気がします。
私は毎週その時間になると、自室のテレビの前で、そのアニメを楽しんでみるようになりました。
それで、その内容というのが、ほとんど意味不明。
毎週毎週、
汚らしく話しあう、ソファーに座っている男と女。
薄暗い部屋で、ゲームに熱中する子供。
夜の繁華街の冷ややかなアスファルト。
路地に倒れた酔いつぶれた男。
憂鬱そうな乱痴気騒ぎ。
とでも言うべき、殺伐とした光景がただひたすら繰り広げられます。
そうですね。今でいうと、酔っぱらったサラリーマンが、駅員に暴行を働くのを笑ってみている一歩手前、というような世界観のアニメで、疎外感を絵にかいて額縁に入れたかのような話の連続でした。
ある時、若者が集まるクラブに、ニット帽を被っている気の弱そうな女の子がいました。場違いな空間に一人、オドオドしています。
新興住宅地に住んでいると思しき、その引っ込み思案な少女は、両親にプレゼントされたコンピュータと、それが繋がったネットワークに次第に耽溺するようになりました。
生き生きとし始める少女。
彼女の家の前の道には、何本もの電柱が、まるで通行を拒むかのように立ち並び、黒い電線はまるで空を分断するかのように頭上を覆いつくし、ブーンと電気の唸り声をあげています。
先ほどのクラブに、また一人の少女がやって来ました。
それは、あの時のニット帽を被った少女にそっくりでしたが、ずいぶんと世慣れた感じで、とても社交的でした。
しばらくすると、街のあちこちで、その少女とネットワークの噂ばかり耳にするようになりました。
今では、あの気の弱そうな女の子の部屋は、よくわからないハードウェアと黒いケーブルにすっかり覆いつくされています。
その中で、何もかも諦めきったような彼女の全身にはコードが巻きつき、半開きの口からは何かが繋がれた舌が覗いていて、もはや精神も肉体もコンピュータとネットワークに、完全に侵食されていました。
家族の顔が遠くに見えます。父の顔、母の顔。飼い犬の顔。
そして、少女は跡形もなく消えてしまいました。
と、そんなアニメでした。
そもそも、その女の子はいたのか?いなかったのか?
いたとしたら、どこにいたのか?
彼女は一体だれだったのか?最後に出てきた機械の男は、彼女に何を言ったのか?
それは放送当時、全然わかりませんでしたし、ここに書いているのも、他の記憶と混ざっている、私の作り事かもしれません。鉄雄みたいな、機械の男、いたと思うんだけどなー・・・。
当時の私は、『攻殻機動隊』やサイバーパンクなど見ていませんでしたので、この作品が何を意味するのか、さっぱりわかりませんでした。
時系列的には、それらの後になるんでしょうね。
なので、どういう作品として見ていたかというと、完全に「電波系」として見ていました。
あんまり、このあたりの話は具体的にはしづらいところですが、えーっとまあ「ガロ系」とでもしておきましょうか。ゲームだと「ムーンライトシンドローム」。今だと二次妻Hzで、どいちゅーさんの仰ってた「外れたみんなの頭のネジ」とかですかね。
夜中にひっそりと自分のものにしていた、自分だけのアニメ。
誰かと話したことすらない作品。
みなさんも、そういうのあるのではないでしょうか?これを機に見返してみるのもありですが、それだと私の脳内にいる、このシュレディンガーの猫が死んでしまう!
なので、せめて見返す前に、このよくわからない作品を、このよくわからない記憶のままで、ネットの中に書いてみるのも、ありなんじゃないかと思い筆をとりました。
薄暗い部屋で、いつも「lain」を見終わったら、ヘッドホンを外して、テレビとデスクの電気を消して寝ていたことだけは、今でもはっきりと覚えています。