ファッションリーダー、あおい
「さて、ちょっと話しましょう」
「いいね。なんの話をする?」
「『ヤマノススメ』です」
「お前は天才だな!」
「誰が好きなんですか?ひなた以外で!」
「えー!ちょっと、ひなたについても一言、言わせてよ!」
「ひなたのどこが好きなんですか?」
「まずはファッションだよね。あのボーイッシュな感じ。こうタンクトップに、首回りがざっくりした上着を重ね着してるの、あれ好きなんだよね」
「あんた大学の頃、好んでそういう格好してましたね」
「俺のは下に着てるの、ただのロングTシャツだったけどね。タンクトップは無理」
「だったら、私はあおいの方が好きですね!こう、袖のちょっと余った黒いロングTシャツの上に、丁度のサイズの半袖を合わせる感じですよ」
「何言ってんだ!あおいは、ウインドブレーカーだからいいんだよ!そんで山用のスカートの下にタイツ。それに、足首にモコモコしたやつ着けてるのがいいの」
「これだから素人は!いいですか、あおいは登山服よりも、私服に注目してください。あんなにガーリーなワンピースを着こなせるのは彼女だけです!これは何も『ヤマノススメ』に限った話ではありません。あの自分の部屋で、ゴロゴロしてるあおい。一人でイジけてる感じがシンジ君みたいで、たまんないですよ!あの華奢な肩、背中、鎖骨、そして細い二の腕。抱きしめたら、まるで痩せた猫みたいじゃないですか。ニャー。柔らかく縮む、あばら骨の感触が腕に伝わってきません!?あおい!あおいー!」
「ファッションの話してんじゃねーの?」
「だから!ノースリーブのワンピース、麦わら帽子、アンクルストラップの付いたサンダルと、これですよ!」
「アンクレットってエロイよね」
「アンクレットは超絶エロイです。そんで、帽子の上に手をかざして空を見ようとしたとき、わきの下がみえるんですよね」
「だから、フェチの話をするなっての!」
「それじゃあ次は、ここなちゃんの話をしてください」
「ここなちゃんは、俺の方が先に目をつけてたのに、『熱文字』に取られたんだよね」
「ラジオに嫉妬するのやめてください!なんだよ取られるって」
「ちょっとぐらい、いいじゃん!むしろ番組内で触れられると、ちょっと心がざわついて、あれ?俺この子のこと、こんなに好きだったんだ!っていつも気づくんだよ。これが友達同士だったら意気投合するか譲っちゃうから、こうはいかないよ?」
「あんた、こんな話できる友達いないじゃないですか」
「僕は、友達がいない」
「で、ここなちゃんはどうだったんですか?ファッションの話は危険なので、もうしないで下さい!」
「いーや、するね!ここなちゃんは完全に森ガールだからね。全体的にサイズ大きめのワンピースかツーピース。スカートの丈は長めで、オリジナルブランドを海外の工房で作ってるようなスカしたショップで、先が丸い靴買ってんだよ。そんでトップが天然石のネックレスしてんの!」
「そこに、編み込みのあるフワフワした髪が合わさるんですね。いやーフラワーチルドレンみたいでいいですね」
「君。わかってるね!」
「わかってるも何も、ただ服装の説明してるだけですぜ?」
「だから、ここなちゃんはヒッピーなんだよヒッピー!本気出したら頭に花輪つけるんだよ、あの子は!だからモモンガ探して一人で高尾山さ迷ったり、お馬さんともお話するの!そんで夜中にホタルの恰好して、お尻を光らせながら、真っ暗な池の周りをランラン楽しそうにスキップしてんだよ!おいおい、あんたちょっと吸いすぎなんじゃないの!?」
「何をですか?」
「チューペット吸いすぎなんじゃないの!?だから、彼女はネイチャー系だよネイチャー系。肉なんか食わないんだ」
「勝手なことばかり言わないでください。彼女はお肉も食べます!でもそういえば、デジカメじゃなくて、使い捨てカメラ使ってましたね」
「コンピューターとかデジタルとか大嫌いなんだよ!『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』聞いてんの!」
「そんな攻撃的な音楽聞いてるかなー?」
「だからインド雑貨とかアジア系の服も、全部いけるってことだよ。可愛いぞー!それこそ、民族衣装みたいな上着を着てもらって、ショートパンツで裸足でアンクレットしてるってのはどうだ?そんで、川辺に胡坐かいて座ってんだよ。一緒に瞑想したい!」
「お姫様みたいな感じはどうですか?」
「いいけど、ちょっと似合いすぎるんだよね。あのロックハート城みたいなところで、お姫様の格好する話あったけど、あそこで一番輝いてたのはやはり、ほのかちゃん」
「じゃあ板前みたいな恰好はどうです?」
「板前!?なんだよ藪から棒に!割烹着ってこと?・・・まあでも、似合うかも」
「和服も行けますって!」
「それどころかあの人、浴衣自分で縫ってたぞ」
「エッグベネディクト自分で作って食べてるとか言ってませんでしたっけ?」
「このDIY精神!これが本物のヒッピーなんだよ」
カエデさんのロックコーデ
「それじゃあ、次はカエデさんについて、君が語ってくれ」
「カエデさんは私、本当にリスペクトしてるんで、言いたい放題言えないんですけど。やっぱりこの人、本当に山を愛しているんだなっていう」
「ファッションの話をしてくれ!」
「夏祭り。みんなで浴衣着てこようねって言ってたのに、ひとりデニムのショートパンツにタンクトップ姿で、うちわ持ってくるカエデさん。いやー暑いわねー」
「あれは最高だったな!」
「夜はスポーティーな下着姿でくつろぐカエデさん」
「いやーフランクでいいね!」
「寝るときはあのブラ外すんでしょうか?」
「なんでわざわざトップレスで寝るんだよ!それに、あれだと山小屋でブラ外さずに寝られるだろ?・・・駄目だ。やはり俺が話をしよう。町に出るときも、こうカジュアルな恰好で出かけるのいいよね。袖と首回りだけ黒い、白のTシャツ着てたかな?ジーンズとスニーカーが似合っててね。ナイキ履いてほしいね!ビルケンシュトックみたいな、サンダルでもいいな」
「ビルケンシュトックは、ひなたって決めてるんです!」
「ひなたはスニーカーだろう?」
「スニーカーがマストなのは、ほのかちゃん!」
「わかったよ。じゃあ、カエデさんはクロックス以外の普通のサンダルでいいや」
「ADみたいな恰好の女の子、あんた好きですよね」
「好き!いやー、カエデさんと一緒にフェスとか行きたいなー!そんで、キャップ被ってもらって、後ろから束ねた髪が出てるんだよ。付き合いてー!」
「一緒にビール飲みたいですね」
「飲みたいー!ちょっとテンション上がるけど、そんな酔っぱらわないんだよね」
「それなら、ここなちゃんなんか、超酒強そうですよ?」
「ニコニコしながらすげー飲むんだよ。このビール美味しいですー。って言ってギネスばっか何杯も行くんだよ」
「ヒッピーは肉食えなくても、酒は飲めるからいいですよね」
「ここなちゃんは、お肉も食べるんじゃなかったの?」
「ひなたの家のあのベランダに、夏にみんなでビール飲みに行きたくないですか?」
「行きたい行きたい!早くみんなハタチにならないかな?」
「ちょっと、また話がズレてますよ?」
「お前がズラしてんだろ!・・・えーと、話を戻すとだな。カエデさんのファッションね。確か、友達のゆうかちゃんが、見るに見かねて女の子っぽい服を、カエデさんに見繕うっていう定番の話があったな。余計な事しやがって!でも、あれはあれで新たな魅力に気付けたんで、そこら辺感謝してるけどね。でもここはカッコいい系で攻めよう」
「ゆうかって、今なにしてるんですかね?」
「さあ、電話してるんじゃない?で、アクセサリーはブレスレットだね。右手にミサンガっぽいのでいいな。そんで、左手にごついG-SHOCKで決まり!」
「フジロックだと、カエデさんはどこに連れていきます?」
「レッドマーキー」
「ここなちゃんは?」
「フィールド・オブ・ヘブンにずーっと張り付いてるだろうな」
「ひなたは?」
「ホワイトステージ」
「あおいは?」
「日焼けを避けて、後ろの森からグリーンステージを見てるだろうね」
「ほのかちゃんは?」
「彼女はカメラ好きだから、入口の手前の広場でオブジェの写真とか撮るだろうね。写真撮影OKのアーティストの写真とか」
「人はあんまり撮らないって言ってましたよ」
「じゃあゴンドラにのって、景色のいいとこに連れて行くね」
「最後はみんなで一緒にヘッドライナーを見ましょうよ!」
「その後、スペシャルゲストの『電気グルーヴ』聞きながら、みんなで高いぞ高いぞ富士山!って連呼するんだ!」
ほのかちゃんの男の子ファッション
「で、ほのかちゃんですが彼女はどういうとこが好きですか?」
「ほのかちゃんはボーイッシュというより、完全に男の子ファッションなんだよ。ショートカットの髪に、七分袖のTシャツ、カーゴパンツでスニーカー」
「バッシュはどうです?」
「いーや、くるぶしの出るスニーカー。スニーカーソックス履いてんの!」
「でも実際、山にはキーンの靴とか履いて行ってるでしょう」
「そういうのは、ちゃんと検証してるとこを見てくれ!」
「帽子も可愛い、布製のキャップ被ってたのも、男の子っぽくていいですね」
「髪が完全に隠れちゃうからね。頭が小さいから、ちょっと帽子が大きく見えるんだよ。他にも彼女は、襟付きのシャツが似合うね!ポロシャツなんかも似合いそう」
「で、アクセサリーはどうします?」
「彼女はああ見えて、ピアスしてるってのはどう?」
「なるほど、お兄ちゃんの影響ですね!」
「走り屋のお兄ちゃんがピアスしてんだよ。そんで、自分も女の子っぽい感じが出せないかなって思って、開けるんだよね!すげードキドキしたと思うよ?でも、お兄ちゃんが褒めてくれたんだよ」
「引っ込み思案のブラコン少女って、ヤバいですよね!」
「萌えるわー!」
「あと、伊香保温泉にあおいと行ったとき、なんの躊躇もなく脱衣所で上着脱いでブラジャーが見えるシーン、ドキッとしましたね!」
「あれはドキッとしたわー!やっぱほのかちゃん、女の子だったんだ!っていう。最近はパンチラよりブラチラのほうがドキドキするな!」
「それは知りませんけども。でも、あおいも変わりましたよね。昔は修学旅行でも、皆が寝静まったあと、一人でお風呂に入ってたんですよ?」
「そんで、ひなたが嫉妬するんだよ。私が一番の親友だったんじゃないのか!ってね。あおいが本当に好きだし、彼女はかなりの寂しがり屋だからね」
「あんた高校に入ったころ、全く同じ状態に陥ってましたよね」
「・・・その話はよせ。まあでも、これでひなたも変われるよ。新たな関係性に踏み出せたからね」
「しかし山に登ると、やっぱ人間ってこうなるんですねー!」
「全部自分で決めないと駄目だからね」
「登山を通して、自分は変われるということに気づかせてくれるアニメ、それが『ヤマノススメ』!」
「日常系であり、映画だよね」
ひなたの合コン必勝法
「それでは、そろそろ終わりましょう。まとめてください!」
「ちょっと待てって。ひなたも、もう少し話させてよー」
「駄目です。収拾つかなくなるから」
「短めにするからー」
「いーや、絶対ロッキング・オンの二万字インタビューみたいになるから」
「いいから聞けって!ひなた、ひなたのファッションはだな、合コン必勝法なんだよ!」
「・・・なんですか、合コン必勝法って」
「冬の寒い時期に、合コンするだろ?みんな厚着をしてるわな。女子はとっくりセーターとかコートの内側に着てるわけよ」
「ドーテーを殺すセーターとかそういう話ですか?」
「殺されてたまるかあんなもんに。現実に着てるやついたら、ひっぱたくね!」
「そんでそんで?」
「だから居酒屋に着いて、自分の席でコートとかジャケットとか脱ぐだろ?それを見越して、あえてノースリーブとか、ちょっと露出のある服を内側に着とくんだよ。そしたら冬時に女の子の肌に飢えてる男たちは、目の前で厚手のコートの下から急にあらわれた肌を見てドキッとするわけ!これぞ、合コン必勝法!」
「なるほど。それがどう、ひなたに繋がるんです?」
「ひなたは山に登るときも、基本インナーは薄手のTシャツとかタンクトップなんだよね。そこにしっかりしたレインコートを着てるんだよ。それで暑くなってくると、やおらその上着を脱ぐわけ。すると剥き出しの肌が見えるわけ。そのギャップが堪らないんだよ!キャー!」
「なるほど。そんで、脱いだ上着を腰に結んでましたね!」
「そうそう!そんで結構、二の腕とか筋肉がついてる感じなんだよね!これが、その辺のオシャレ馬鹿と山に登ってる人の違いなんだよ。肉体そのものがファッション!」
「うーん。確かに健康的かも」
「健康優良不良少女なんだよ!」
「何言ってんだ、お前?うーん、そういえば私服でもタンクトップとかノースリーブ姿が多かったかも。それに意外と胸もありますし。バスケとかで汗を拭くリストバンドを、手首に巻いてるのもいいですよね」
「そうなんだよね!で、靴は俺の一番好きなコンバース!」
「いやいや、ビルケンシュトックだって!高めのサンダル履いてんの!」
「なんでそんなにビルケンにこだわる?」
「私のと同じやつ履いてる夢を見ました」
「じゃあしゃーないな。あと、アメリカの男の子が着てそうなデニムのサスペンダーが付いてるワンピース着てるのもいいね。これぞボーイッシュ!」
「そんで、普段ほとんどパンツしか履かないひなたが、制服のときだけスカート履いてるのも逆にいいですよね」
「お前頭いいな!そして、そこにさっき言ったざっくりした重ね着が入るわけよ!以上の理由を総合的に勘案して、誰がどうみてもひなたが一番可愛いと、こういう結論になるのです」
女の子の『ファッション』を楽しむアニメ、ヤマノススメ
「さて。これだけ考えてみても、やっぱりこの作品、ファッションや装備など細部にかなりこだわってますね」
「ファッションじゃあ個人的に、これまで見たアニメの中でベストだね。このバリエーションの豊富さ!」
「背景がある意味、単調な自然だからこそ、衣装にこだわるんですね。『ゆるキャン△』もそうですよね」
「登山はオシャレが出来るスポーツだからね。アウトドアはやっぱり、アイテムだよアイテム!必要な道具としてのファッションなんだよ」
「なるほど。ただ可愛いだけでなく、その可愛さが機能に裏打ちされてるんですね。だからあまり自意識に邪魔されず、自分の好きな服をセレクト出来るわけですか」
「そういうこと!」
「まーそれに山っていうのも、当然外ですからね。家の中で異様にオシャレしてても、なんか違うし」
「家の中だとドレスとかパンク系とか、機能性皆無なのが俺は好きだな」
「ということで、全然内容に触れられませんでしたね」
「冬山にカエデさん発案で樹氷を見に行くっていう、フォースシーズンの話もしたかったんだけどなー」
「あんたの創作ね」
「ねえ。樹氷を見に行かない?」とカエデさん。
「なんですか、ジュヒョウって?」
「えー?あおい、そんなことも知らないのー?常識だよ常識ー!」
「なによー!そういう、ひなたは知ってるんでしょうねー!?」
「えーっとね。・・・ここなちゃん、代わりに説明してあげて!」
「ここなちゃんに逃げないでよー!」
「樹氷っていうのはですね。冬の寒いときに、木が雪と氷におおわれて、真っ白な彫刻みたいになることです。とっても、きれいなんですよ?」と、ここなちゃん。
「ちょっと待ってください!一話全部やるの?」
「いや、前後編くらいでやるつもりなんだけど」
「ダイジェスト形式でやってください!」
「えーっと。だから『教えてカエデさん』のコーナーで説明を受けて、アイゼンを買いに行くところから冬山登山の話が始まるんだよ。で御岳山に行くの」
「御岳山で樹氷見られるの?」
「だって蔵王なんて行ったことねーもん。そんで、ボルダリングはまだ無理ねとか言いながらロックガーデンを登って行って、岩が凍って滑りそうなところを、みんなが順番に手を貸して、先に登った人が上から引っ張り上げることになるわけ。そんで、最後に残ったほのかちゃんに手を差し伸べるのが、ひなた」
「ほうほう。そんで、クライマックスは?」
「山頂であおいが、自分とひなた二人だけの写真を撮ってくれるよう、ほのかちゃんに頼むんだよ。快諾したほのかちゃんが、恥ずかしがるひなたとあおいの笑顔のツーショット写真を撮るんだ。そんで印刷したその写真が、ひなたの部屋の一番いいところに飾ってあるのが写って、THE END」
「相変わらず、ベタベタな脚本ですね」
「いいんだよ!OVAなんだから!」
「フォースシーズンじゃなかったんですか?まあでも、新作を楽しみに待ちたいところですね!」
「いや、その前にサードシーズン大変面白かったよ!ありがとう!」
「あんたが、なんでもかんでも日常系日常系言ってたのって、このためですか?」
「たぶんね。俺は日常系が単なるぬるま湯のお遊びじゃない、ただそれだけでドラマチックな物語だってことを証明したいんだよ。これが一つのアンサーじゃないのかな?」
「それじゃあ次こそ、あおいに富士山に登ってほしいですね!それまでに、私もチャレンジしますよ!」
「ということで最後に、あおいとひなたで『毎日コハルビヨリ』と、電気グルーヴで『虹』を聞いてください」
Denki Groove - Niji [Live at FUJI ROCK FESTIVAL 2006]