01
「さて、それじゃあ今日は風力発電のプロペラについて考えましょう」
「うむ」
「私の実家は、神戸でも西の方のベッドタウンにあるんですが、マンションのベランダから、遠くの方に淡路島と明石海峡大橋が見えるんですよね」
「そうだね。明石公園の森とかも見れるな。最近できた超高層ビルのパピオス明石とか」
「うおー再開発とかふざけやがって!」
「おいおい!いきなり怒るなよ、再開発の話は今度しようぜ。今日は、風力発電の話だろ?淡路島に5基くらいできてるんだよね」
「そう。関西に戻ってみたら、遠くの方にクルクルと回ってるんですけど、これが晴れた日とか夕暮れ時にみたら、風情があってなかなかいいんですよね」
「最初は違和感があったけど、今は気に入ったようだね」
「そうなんですよ。それで今日はアニメに出てくる、思い出に残る風力発電機の話をしようと思ったんですよ」
「なるほどね」
02
「はい、えーそれでは。アニメに出てくる風力発電のプロペラといえば、あなたはまず何を思い出しますか」
「俺は一番に出てくるのはやっぱり『ARIA』だな!」
「『ARIA』でしょうねー」
「やっぱりデザイン的にさ。アクアは水と風の星じゃない?火星が水の星になったんだよね、あそこは」
「そうですね。そんでサラマンダーさんが火を管理してっていう。このクリーンエネルギーのイメージがやっぱ『ARIA』の世界観で、それが雰囲気にもマッチしてますよね」
「原子力は絶対使ってないでしょうよ。だから、ヴェネツィアの街並みもそうだけど、異様なまでに奇麗にろ過された水と、作り出された大気、そしてそれを利用した風力発電なんかがね、『ARIA』の世界をSFに、ただのヴェネティアじゃなくて、ネオヴェネツィアにしてるわけなんだよね」
「なるほどね。よくわかりました。さて、それじゃあ別の作品に・・・どうしたんですか?なぜ私の腕を持つんです?」
「・・・もう少し具体的に喋らせてくれ」
「ほどほどにお願いしますよ。それでどの風力発電が出てくるシーンが良かったですか」
「そりゃーやっぱ!アリスちゃんが二階級特進するシーンだよ。昇進試験で、アテナ先輩と丘の上に水式のエレベーターで上がっていって、カンツォーネを披露するところでさ。あそこのシーンは、バックの丘の上に風力発電のプロペラが何基も回ってるんだよね!あれは良かったなー」
「あれは良かったですね。でも二階級特進じゃなくて、飛び級合格ね。アリスちゃん死ぬんじゃないんだから」
「そんで、『ARIA The CREPUSCOLO』でも、アリスちゃんたちがフィーチャされてて、そのシーンが出てくんだよ!えー!そこもう一回やってくれんのっていう!?あれは嬉しかったなー!」
「でも、その日映画館にいたの、あんた含めて2人しかいなかったじゃないですか?」
「もうダメだ、神戸は」
「私は、映画見てて、『オレンジぷらねっと』のみんなの髪の量の多さにビビりましたよ」
「みんな髪すごくてさ!ショートカットだった、アテナ先輩なんか『シン・エヴァ』の綾波みたいになってたもんね!」
「アリスちゃんも、新入りのアーニャちゃんもすごいわさわさになってましたし。さて、また『ARIA』の地場に引っ張られてきたので、次へ行きましょう」
「アテナさんの演技良かったなー」
03
「はい、それじゃあ君のターンだ」
「私は『とある科学の超電磁砲』ですね。あの学園都市にあるやつですよ」
「あれもやっぱり、SFっていう未来観に一役買っているわけですよ」
「風力発電は、まだまだ未来のイメージなんだね」
「あと未来のイメージへもう一役買ってるのが飛行船ですね。これまた『ARIA』でも浮き島とかありましたけど」
「風力発電のプロペラと空に何か浮いてると、中世からある街でも、普通の都会でもSFになるわけね」
「そしてこの作品最大の特徴は、風力発電機が街中にあることなんですよ」
「そうそう。街はずれとかにも多いけど、学園都市の街中にデーンとあるんだよね」
「それで、デーンとあるプロペラで、御坂美琴が回して戦いに使ったりするわけですよ。だからこのモニュメント感。遠くの島に回ってるんじゃなくて、それこそデカイ何かが街中にある感じですよ。ビルの間に立っている、エヴァンゲリオンとか、そういうのに近いビッグな存在感があるんですよね。よくないですか?地方都市の街中に風力発電のプロペラとか」
「いや、それならモビルスーツですよ」
「何よ?」
「キュベレイとかどうです?」
「ちょっと女性的な感じがするか。フォルムとか」
「などなど、平和なモニュメントとしての風力発電について考えてみましたがいかがでしょう?」
「なんで平和になるんだい?」
「だって、学園都市は風力発電をしてるのに、原子力発電所もあるんですよ?」
「そうだったな。確かAIMバーストが暴走して、発電所に向かってたね」
「それに、御坂さんが、怪獣映画かっつーの!って言って止めに行くじゃないですか」
「いやー!あのシーンはカッコ良すぎて、10回以上は見てるな!」
「この辺りの電気が能力の御坂美琴が、発電所へ向かうみんなの劣等感の思念体を止めに行く感じ、良かったですね」
「まあ原発うんぬんは、意味を見いだしてもいいし、見いださなくてもいいと思うけどね」
「そんで、もう一回、頑張ってみようよ!っていって、ピンってゲーセンのコイン投げた後、バーストを撃ち抜くシーンは滅茶苦茶カッコ良くて、私も酒飲むとたまに見返しますね」
04
「はい、ということで、未来的で女性的、平和な感じでモニュメントとしても、見ごたえのある風力発電についてですが、他になにかありますか?」
「よし!それじゃあ俺は、風力発電のモニュメントとしてのダークな側面を紹介するぜ」
「ほうほう」
「アニメじゃなくてゲームになるんだけど、『サイレントヒル』ってホラーのアドベンチャーがあるんだよ」
「はいはい。バイオみたいなやつね」
「それで主人公は、いなくなった娘を探して、霧に閉ざされた町を捜索するんだけど、実はその町は、ある女性の虐待や死のイメージと混ぜこぜになってるところなんだよね」
「町の作りとかが、その人の恨みとか苦しみとかを具現化したものなんですよね」
「そうなんだよ。だから終盤になればなるほど、大通りの車道が全部陥没してて歩道しかなかったり、陸橋とかが何故か全部金網で出来てたり、ありえない様相を呈してくるんだよ」
「それは面白いですね。行けば行くほど、町があり得ない形で荒廃していくと」
「そうそう。そんでしまいには、自分が歩いてる道路が、ただの錆びた建築現場にある金網みたいなのだけになっててさ。それが暗闇の奥に向かって、まっすぐに伸びてるところに出るんだよ」
「もはや完全にあり得ない場所ですね」
「そうそう。それでイヤだなー、まるで狂人の脳内に一直線だよなーとか思いながら、真っ暗な闇に向けて懐中電灯持って走っていくとね、闇の奥から赤錆だらけの風力発電のプロペラがいくつもいくつも現れるんだよ」
「ふむふむ」
「足元は錆びついた金網で、周囲は真っ暗。そんで前方から通路の左右に、先が異様なまでに尖ったプロペラがギリギリと回りながら、ふぉんふぉんって、背後に消えていくんだよね。これがまあ、現実が悪夢に侵食されてる世界のイメージじゃ、マイベストでさ」
「それはイヤですねー。クリーンで未来的で女性的で、平和の象徴みたいな風力発電が・・・」
「すべて錆びついてて、死の象徴になってるんだよね。呪いとか有機的な感じじゃなくて、機械だから非常にインダストリアルな感じで」
「うーん、大きくて意味のあるモニュメントだから、そういうこともできると」
「クリーンから反対行ったときの威力は、半端じゃなかったよ。あれをやるのはなかなか難しいと思うけどね」
05
「さて、それじゃあもう一つくらいあるかな?」
「うーん、今の話を聞いて、風力発電のイメージが変えて使われてるって言えば、昔『灰羽連盟』ってアニメがありましたけど」
「あれにも風力発電が出てくるんですけど、これがトタンみたいな素材で出来ててですね。あちこち泥だらけなんですよ。かなり小ぶりなデザインでね」
「使い込まれてたね」
「それをクウって男の子が気に入ってて。町のあぜ道にあるその風力発電のところによくいるんですよ」
「うーん、確かあの世界は時計塔とかなかったっけ?なんかろくにガスも電気も来てないようなとこだと思ったけど?」
「そうなんですよ。だからこれは、どっちかというと廃れた未来のイメージというか、SF的なものが負けた感じがあって、なかなか良かったですね。ある種のサイバーパンクとでもいいましょうか。ジャンクを通り越して、風車くらいにまで後退してるんですよ」
「なるほどね。だから、風力発電だけで景色にもなるし、死の象徴とか世界観の反映とか文化の紹介とか、いろんな役割が担えるということだね」
「そういうことですね」
06
「えーそれでは、大体風力発電について考えてきましたけど、最後に最近のアニメの風力発電について聞きたいんですけど、出てきてます?」
「たくさん出てきてるね。それで多いなーと思って今回シンポジウムを開いたんだけど」
「例えば何でしょうか?」
「この間、『ゆるきゃん△』の2期でも、リンちゃんが年越しキャンプに行ってたときに、結構大きなのが見えたな」
「ありましたね。私は『白い砂のアクアトープ』で、沖縄に風力発電が出てきたので、あー沖縄の景色にも映えるんだなーと思ってましたよ」
「白に青い海と空のコントラストが映えるよね」
「そう。だから色んなのを探してみると面白いし、最初の実際にある淡路島のじゃないけど、本当に風景としての風力発電というか、ただの風情として見るのが一番好きだなーと思いまして」
「風力発電をただのモニュメントとして、注目してみると楽しいんじゃないかというわけだね」
「そうですね」
「俺は、ファンタジー世界だと出しづらい、それでテクノロジーの進み過ぎたSF作品にも使いづらい、やっぱり現代の作品だからこそ使われてる風力発電ってのを意識してみると、面白いんじゃないかと思うね」
「よくわかりました。ということで、今回のシンポジウムはこの辺りにしましょう」
「そうだね」
「それじゃあ、最後に何か一曲掛けてください」
「どんな曲がいいかね?」
「今、8月の9日ですよ。やっぱり夏休みっぽい曲がいいですね!」
「わかった。それでは聞いてください、DAOKO × 米津玄師で『打上花火』」